2016年2月28日日曜日

日本の可能性を感じられる本

今日は、もはや流行語のようになっている地方創生、観光立国について考えさせる本です。
果たして、国や自治体がアピールしている日本の良さは的を射ているのか?
国や自治体のお金のかけ方は正しいのか?


デービッド・アトキンソン 新・観光立国論
デービッド アトキンソン
東洋経済新報社
売り上げランキング: 1,424


結論から言うと、どちらも正しくない、というのが著者の主張です。
著者のデービッド・アトキンソンさんは、国宝や重要文化財の補修を手掛け創立300年以上を誇る小西美術工藝社の社長であり、ゴールドマン・サックスの元アナリストです。
従って、データにも裏付けられたその主張は、クリアかつ説得力があるものです。

まず著者は、人口減少が確実ななかで日本が成長するためには、観光収入を上げるしかないと説きます。しかもそのターゲットは、滞在期間も長く、かつ観光にお金を使いたがる欧米豪の富裕層、インテリ層。
私も驚きましたが、日本のGDPに占める観光収入の割合はわずか0.4%です(スペインで4.8%)。さらに、人口あたりの観光客数は8.2%(韓国で23.7%)。※ともに2013年データ
一方で、著者が主張する観光大国の4条件は「気候」「自然」「文化」「食事」です。そして日本は、この4条件を極めて高いレベルで備えた稀有な国だと言っています。
要は、その能力を全く活かしきれていない、勿体無い、というのが著者の主張です。

例えば、最初にあげた海外へのアピールの実例として「治安のよさ」や「おもてなし」「時間に正確な交通アクセス」をあげています。しかし、こうしたものを見るために、わざわざ十何時間もかけて欧米豪の観光客は来ない、ということです。ましてや、日本のおもてなしは、融通がきかない、堅苦しい、との批判も観光客から受けています。また、時間に正確なことよりも、交通機関の値段の高さや渋滞に対する不満の声が多いです。さらに、国のお金のかけ方のほうを見てみると、国の予算に占める文化予算の割合はわずか0.12%。韓国の0.79%にすら劣っている状況です。

つまりは、日本は、的外れなアピールを繰り返し、肝心の見てもらうべきもの、楽しんでもらうべきものの整備にはお金をかけていない、ということです。きちんと文化財自体にお金をかけるのはもちろんとして、お金をおとしてもらえる環境を整える必要がある、ということです。

例えば、奈良県の例をあげています。観光客のほとんどが、京都や大阪に滞在して日帰りするため、あれだけの文化資産を持ちながら、ほとんどお金がおちていません。私も大学時代、京都に住んでいたため、よく奈良には遊びに行きました。凄くいいところで、大好きです。しかし、当時も20時には町が真っ暗になっていました。

例えば、ネイティヴが興味を持てる解説を用意する、有料のガイドを用意する、歴史をショーにして見せる、伝統芸能を体験させる、有料の特別ツアーを用意する、境内にゆったりとした雰囲気の食事処やカフェを設ける、ナイトツアーを用意する、歴史を感じながら一杯できるナイトスポットを用意する、ホテルを増やす、等々。色々と出来ることはあります。反省とともに、日本の可能性に改めて期待を抱ける本でした。

いやー、本ってほんまええもんです!!

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2016年2月13日土曜日

チャレンジしたくなる本

今日は、軽い気持ちで買って読んでみた、こんな本です。

携書 NASAより宇宙に近い町工場 (ディスカヴァー携書)
植松 努
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2015-12-17)
売り上げランキング: 30,587

結論です。凄くいい本でした!
特に、若い人に是非読んでもらいたいと思います。
(というか、基本的にいいと思った本しか、このブログで紹介するつもりはありません。)

この本の著者である植松さんは、北海道赤平市にある中小企業の社長さんです。

しかし、何故か、ロケットの開発も手掛けています。その理由が素晴らしい。
"「どうせ無理」という言葉をこの世からなくすため" です。

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大人が単なる憶測だけで語る評論によって、多くの若い人たちが可能性を奪われている。
挑戦も夢も、「どうせ無理」という憶測によって潰される。
人の可能性を奪うことは、殺人と同じくらい罪深いこと。

そもそも挑戦や夢は、何度も失敗するからこそのもの。

今できる範囲から選択肢を選ぶことなんて、ただ今のままでいる、ことに等しい。
今できないことができるようになるから、それが未来となる。
あきらめることはいつでもできる。だから、最後に回せばいい。

やったことのないことは、やればできるようになる。知らないことは、調べればいい。

成功するための秘訣とは、成功するまでやるということだ。
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そんな植松さんの素敵な言葉で溢れています。

従業員20名の会社がロケット開発をするなんて、「どうせ無理」と常識人は言います。

でも、植松さんは「どうやったらできるか」しか考えません。
常識という名のつまらない憶測に縛られる限り、現在からの進歩はありません。
進歩するためには、「できる方法」「よりよくする方法」を皆が考える必要があります。

チャレンジする勇気を改めてもらいました。

ちなみに、チャレンジしたくなる、という意味ではこんな本も改めて読み返しました。

モモ (岩波少年文庫(127))
モモ (岩波少年文庫(127))
posted with amazlet at 16.02.13
ミヒャエル・エンデ
岩波書店
売り上げランキング: 197

1973年出版の作品です。児童文学です。
しかし、時間を盗まれ、心から余裕を無くしていく人々、という描写は、まさに現代人を表している気がします。古さを感じさせない、大人でも読み応えのある名作です。
時間貯蓄銀行の灰色の男たちから皆の時間を取り戻すモモに、勇気をもらえます。
そして、限りある人生のなかで自分にとって本当に大切なものは何か、改めて考えさせられます。

いやー、本ってほんまええもんです!!


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2016年2月7日日曜日

とっぴんぱらりのぷうな本

今日は万城目ワールドです。700頁超の大作です。

とっぴんぱらりの風太郎
とっぴんぱらりの風太郎
posted with amazlet at 16.02.07
万城目 学
文藝春秋
売り上げランキング: 13,953

万城目学さんの作品、大好きです。
本作品の主人公の名前は、風太郎(ぷうたろう)。
名前のとおり、伊賀を追い出された落ちこぼれ元忍者のプータローです。
日々ぷらぷらするなかで、因心居士と名乗るもののけ「ひょうたん」に取り憑かれます。
まさにそこは万城目ワールドですが、この作品でひたすら語られるのは忍者の悲哀です。

掟に縛られ、生きることにも死ぬことにも自由は無い。
命じられるまま、石ころのように死んでいく。
それしか道が無い忍びの悲しさです。

ときは、徳川家康の世。
権力基盤を絶対的なものにするため、仕上げとして豊臣家滅亡を画策します。
一方で、平和な時代を間近に控え、忍びもその役割を終えつつあります。

風太郎も、都合よく大坂冬の陣に駆り出され、多くの人を切ります。
しかし、仕事が終われば再び、ゴミのように主君である藤堂家から捨てられます。

そんな風太郎は因心居士と、ひょんなことから知りあったねね様に頼まれます。
大坂夏の陣の真っ只中、徳川の大軍勢に囲まれた大坂城に侵入することを。

しかし、風太郎は因心居士の不思議な力と腐れ縁の忍びである蝉と黒弓の助けを得て、なんとか大坂城本丸への侵入を果たします。
そして、なんとか因心居士の願いを叶えた後、ねね様に預かったものをひさご様に届けます。ひさご様とは、つまりは大坂勢の総大将である豊臣秀頼のこと。

ここで風太郎(と蝉)は、自分たちを石ころのようにしか扱わない忍びの頭ではなく、人として温かく接してくれるひさご様のためにその命をかけることを決めます。

誰かを殺すのではなく、誰かの命を助ける。
そして、何かを最後までやり遂げる。

そのため、ひさご様の娘(赤ん坊)を徳川の大軍に囲まれた大坂城から救い出すことを決めます。
徳川の忍びとの死闘。多勢に無勢のなか、仲間が一人、また一人と死んでいきます。読んでいて涙が溢れてきます。でも、風太郎は自分のただ一つの強みを活かし、文字通り自らの命を懸けてやり遂げます。

この本を読み終えると、「プリンセストヨトミ」が読みたくなります。
風太郎のやり遂げたことが、この作品に繋がっていると思いたくなります。

まさに、去年秋田に行った際に聞いた昔語りの最後の台詞のとおり。
"とっぴんぱらりのぷう"。 この作品、お薦めです!!

いやー、本ってほんまええもんです!!

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