2016年3月19日土曜日

無戸籍の問題を考えさせられた本

「日本人は人権に疎い」と世界では良く言われています。
「法律は後追いでしかない」とも世間では良く言われます。
本日の1冊は、そのことによる悲劇について、改めて実感させられる本でした。

無戸籍の日本人
無戸籍の日本人
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井戸 まさえ
集英社 (2016-01-04)
売り上げランキング: 11,967

この本で扱うのは、無戸籍者の問題です。まさに、カンヌ国際映画祭で柳楽優弥さんが主演男優賞に輝いた映画「誰も知らない」の世界。戸籍がなければ、住民票が作れません。義務教育も受けれないし、健康保険証も持てない。身分証明書が一切無いので、銀行口座も作れないし、まともな仕事にも就けない。作品のなかに綴られている実際の無戸籍者の方の生活や境遇は、まさに悲劇です。読んでいると胸が詰まり、日本という国の何かがおかしいと思えてきます。

何故、無国籍になるのか?簡単です。出生届が提出されていないからです。しかし、提出されなかった理由は様々で、複雑です。親の怠慢や思想もそうですが、最大の障壁になっているものこそ民法772条です。つまり「離婚後300日以内に生まれた子は、前夫の子と推定する」という、いわゆる300日ルールです。では何故、このルールが障壁となっているのか?離婚の調停に時間を要するケース、夫のDVから逃げ出しなかなか籍を抜けられなかったケース、等々。そうしたケースでも民法、つまりは日本国は、生まれてきた子どもの父親は前夫だと勝手に決めてしまうのです。これは女性にとって屈辱であり、到底のめるものではありません。結果として、出生届を出すに出せないのです。

この条項は、女性が自ら離婚を言い出すことなど出来ず、一方で姑や夫の意向一つで理不尽に離縁を申し渡されていたような時代に、子どもの不利益を避けるために定められたものです。時代で言えば、実に100年以上前。それから時代は大きく変わりました。今や、女性の権利は高まり、DNA鑑定で父親が誰かもすぐに分かる時代です。しかし、この条項は時代の変化を無視し、女性の個別の境遇を無視し、何よりも子どもの人権を無視しています。まさに、世界で日本人は人権意識に疎いと思われており、法律は後追いに過ぎない、ということが実感できます。

では何故、改正されないのか?何が邪魔をしているのか?それは「こうあるべき」の勝手な強要、偏狭な価値観の強要です。

誰かに、何かに「守られて」きて、それを当たり前と思っている恵まれた立場の人々は、それが「たまたま」であることを考えず、生まれながらにして弱い立場におかれている人たちにも自分たちの「べき」を押し付けます。かつてある首相が良く口にしていた「自己責任」は、恵まれた側の人の理屈です。しかもその「べき」とは、「離婚は悪」であり、300日ルールを「(女性が受けるべき)離婚の罰」と考えるものです。更には「親の罪は子どもも償え」と平気で言う議員までが登場します。こうした人たちが、日本の政策を決定する立場にいるのです。

こうした議員は、そもそもの日本国憲法における「基本的人権」を理解しているのでしょうか?憲法(日本国)は、人が人らしく生活するための生まれながらに持つ権利を保証しています。侵すことのできない権利として保証しています。親がどうであろうとも、子どもは個人としての人権を有します。政策を決定する側の人たちが目を逸らさず、一人でも多くの無戸籍者の人たちが救われていくことを望みます。そしてこの本を読み、何か出来ることを自分もしたいと思いました。

いやー、本ってほんまええもんです!!


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