2016年6月18日土曜日

戦後日本の技術者の気概を感じられる本

本日の一冊の主人公は、SHARP(旧早川電機工業)興隆の最大の功労者。
ソフトバンクの孫正義社長を世に送り出した大恩人であり、あのスティーブ・ジョブズまでもがアドバイスを求めて訪問したエンジニア、佐々木正さんです。

ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正
大西 康之
新潮社
売り上げランキング: 501

結論から言うと、この本、大変良かったです。戦後日本の技術者が、欧米との間に存在する物量の絶望的な差を知恵と精神力で埋めていった姿勢に対し、敬意と誇りを感じました。特に佐々木さんは、その技術的知見と先見性、行動力と人脈で、先に述べたとおりに多くの人々から尊敬を集めた人物です。

米企業ロックウェルの技術者たちは、議論の最中に発想があちこちに飛び、突然とんでもないことを言い出す佐々木さんのことを
「戦闘機のスピードではササキには追いつけない。ロケット・ササキだ」
と評したと言います。このあだ名が本著のタイトルになっています。実際に佐々木さんは、NASAから「アポロ功労賞」も授与されています。佐々木さんは、電卓の重量が25kgもあり、価格もまだ50万円以上もした時代に、
「この回路は、いつかチップになって人間の脳に埋め込まれるかもしれないよ」
と言ったといいます。恐るべき先見性です。

さらに、技術者の間では全くモノにならないと信じられていたMOSやDSM液晶の技術にも手を出し、その実用化を実現することで革新的製品を開発しています。MOSについては、通産省の官僚に対し、
「最初から簡単に量産できる新技術などありませんよ。でもやがて不可能は可能になります」
と語ります。さらにDMS液晶については、液晶技術の芽を有しながらも使うつもりはないという米企業に対し、
「我々は、わずかな可能性にも挑戦しなければなりません」
と語りかけます。こうしてSHARPは、カシオやオムロンとの熾烈な電卓競争を戦い抜きます。わずか13年の間に、電卓の重さは384分の1、価格は63分の1になりました。この一連の競争の描写には、正直しびれました。

確かに、電卓を巡る技術と価格の競争は行き着くところまで行き、結果、企業の収益源とはもはやならなくなりました。しかし、その間にSHARPは様々な技術の芽にチャレンジし、多くの新技術をモノにしました。それにも係らず、その後のSHARPは得意の液晶分野にのみとどまり、博打のような巨額投資を行い、それ以外の技術にはチャレンジしなくなりました。歴代社長が佐々木さんのところに顔を出すこともなくなり、技術者の声にも耳を傾けず、鴻海(ホンハイ)精密工業の軍門に下りました。少し前に読んだ記事によると、日本の技術力は今も非常に高く、多くの特許を有しています。しかしその一方で、その技術により生み出された経済価値を計算すると、米国の6分の1程度だそうです。要は、日本企業の経営陣には技術を活かす力が無い、ということです。

佐々木さんの言葉は、様々な示唆に富んでいます。
「わからなければ教えを請う。請われれば教える。人類はそうやって進歩してきたんだ。技術の独り占めは、長い目で見れば会社にとってマイナスになる」
「『オンリー・ワン』や『ブラック・ボックス戦略』は、いささか傲慢だ。(中略)イノベーションとは、他の会社と手を携えて新しい価値を生み出すことを言う」
「技術は会社のものでも国のものでもない。人類のものだ」
「人間、一人で出来ることなど高が知れている。技術の世界はみんなで共に創る「共創」が肝心だ」

彼が終生主張し続けた「共創」の考えを、彼は「リンゴマンゴー」という独特の表現でジョブズにも伝えています。彼自身、来るものは拒まず、人と人をつなげ、若い芽を育てました。若い孫正義のためにも、銀行に対し、
「彼のことは私が保証します。何なら私の退職金と自宅を担保にとっていただいても構いません。どうか融資してやってください」
と頭を下げています。人を育てたことこそが、彼の残した最大の財産かもしれません。このような人がいなくなっていくことは、国が廃れていく、ということに等しいように思います。いずれにしても、心が震える一冊でした。

いやー、本ってほんまええもんです!!


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