が、先の全仏で、改めて彼が持つ"世界の頂点に立てるポテンシャル"を感じたので、この本について書きます。
錦織選手は、2007年にプロに転向し、その翌年18歳で、いきなりATPツアー初優勝を果たします。日本人男子のツアー大会優勝は、1992年の松岡修造選手以来の快挙でした。同年の全米オープンでも、当時世界4位だったフェレール選手(私が最も憧れる選手です)を撃破し、ベスト16入り。ATPツアーに参加している全選手の相互投票によって決められるATPワールドツアー最優秀新人賞も受賞しました。
しかし、その翌年の2009年に右肘の疲労骨折が判明し、その後も怪我に見舞われ、2009年をほぼ丸々棒に振ります。結果、ランキングを一時失ってしまったどん底の時期から、本書はスタートします。本書は錦織選手自身によるブログ記事を軸とし、そこに都度解説が挿入される形で進みます。
復帰後の錦織選手の綴る言葉は、思いどおりに行かないテニスにイラつきつつ、それでも日々前向きです。2011年には、名コーチと言われたブラッド・ギルバートを招聘し、日本人男子最高の世界ランキング30位までランクアップします。更に、同年のスイス室内では現在絶対王者として君臨しているジョコビッチ選手も撃破します。しかし、この頃の錦織選手のテニスは、安定感を重視した堅実なテニスで、結果着実にランクはアップしていたものの、トップ選手相手に五分に戦える爆発力はありませんでした。彼の持ち味であったはずの豊かな創造性(と攻撃力)が影を潜めてしまっていた、と解説されています。
2012年、2013年もラインキングは着実にアップするものの10位の壁は破れず、"トップ10の選手と互角以上に戦う" という錦織選手の目標にも達していませんでした。この頃の守りと攻めを織り交ぜたテニスには手応えを感じていたものの、フィジカルとメンタルで壁にぶつかっていました。2013年のブログにはこんな記述もあります。
− 緊張はすべて自分でコントロールできるもんなんだと、今更ながらに思いました。(中略)まずは勝つことよりも、自分のすべてをコートに置いてくる。このシンプルな考え以外、他には必要ないんだなと。
− 後は、楽しむこと。(中略)そのうえで、勝ちたい、負けたくない、という気持ちが最後の一歩を後押ししてくれる。意外とシンプルな考えで整理がつくんだということを再認識しました。
しかし、この2013年の末に、この壁を楽々と越えてしまう強力なパートナーシップが確立されます。元世界ランキング2位で、アジアにルーツを持つ男子選手として唯一の四大大会優勝者であるマイケル・チャンのコーチ招聘です。彼は、身長175cmと小柄ながら、驚異的なフットワークと強靭な精神力でATPツアー34勝を果たしました(錦織選手は現在11勝)。彼の強靭なメンタルを象徴するのが、プロ転向翌年の全仏で、17歳にして優勝したことです(男子の四大大会通しての最年少優勝記録)。しかも、17歳の若造が4回戦では、当時世界ランキング1位だったレンドル選手に対し、起死回生のアンダーサーブを打っているのです。これはいまだに語り継がれる伝説です。チャンコーチは、錦織の弱点を補っていきました。そして2014年の爆発の年を迎えます。
この2014年だけでツアー4勝を達成しますが、本書のクライマックスは何と言っても、準優勝した全米オープン。そして、文字通りのトップ選手として迎えたツアー・ファイナルズです。ツアー・ファイナルズで錦織選手に撃破されたマリー選手の(錦織選手についての)コメントが印象的です。
− (これまでの対戦時と)テクニックに大きな違いはないが、自信を持ってプレーしている。だから、より多くのチャンスをつかむことができるし、以前より少し攻撃的にできている。
このとき、錦織選手自身もこんな言葉を残しています。
− 5位をキープして、3番、2番に上がりたい。
錦織選手の今の世界ランキングは6位です。その上にいるのはナダル選手、ワウリンカ選手、フェデラー選手、マレー選手、そしてジョコビッチ選手です。一方で、下からは、今年の全仏でベスト4に入った22歳のティエム選手や抜群の身体能力を持つといわれる21歳のキリオス選手などが追い上げてきています。しかし、彼自身「勝てない相手はもういない」と断言しています。若い世代の追撃を跳ね返しつつ、BIG4を撃破して、1つ1つランキングを上げていってくれると信じています。そして、日本人が世界の頂点に立つ瞬間を、近いうちに目にできると信じています。
いやー、本ってほんまええもんです!!
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