2016年5月8日日曜日

バベルの塔 × 万城目ワールド = な本

本日は、万城目学さんの最新作。
いわゆる「万城目ワールド」、大好きです。
が、どうも今回の作品は、趣が少し違いました。

バベル九朔
バベル九朔
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万城目 学
KADOKAWA/角川書店 (2016-03-19)
売り上げランキング: 7,149

一体どう違うのか?

本作でも変わらず、不思議な力は出てきます。「偉大なる、しゅららぼん」との繋がりも出てきて、思わず二ヤッとさせます。でも、これまでの作品で見られた、独特の「ユルさ」がありません。息が詰まるような展開が繰り広げられます。舞台も、これまでの古都の趣が残る関西の町ではなく、陰鬱な建造物「バベル」です。

本作の主人公は、雑居ビル「バベル九朔」の管理人。小説家を目指して会社を辞め、尊敬する祖父(故人)が建てたビルの5階に転がりこみます。そして、離れて住む母に文句を言われながら、管理業を務め、小説を書き続けています。しかし、様々な賞に申し込むものの、一次選考すら通過したことはありません。一方で、かつて祖父の時代にはテナントの出入りが激しかったビルも、現在は5つのテナントが入居して安定しています。

そんな日常に、少しずつ歪みが生じ始めます。謎の窃盗団が登場し、水道メーターが異常な数値を示し、巨大ネズミが殺されます。そして、(文字通りの)カラス女が現れ、主人公に尋ねます。
「扉はどこ?」「バベルは壊れかけている」

そこから話は、あっちの世界に移ります。つまりは、主人公の祖父が作りあげた世界(バベル)に。そこには大きな湖があり、進まない船と動かない太陽があり、エンジン無しで進む車があり、歳をとらない少女が一人だけいます。そして突如、天まで届くような塔が出現します。

突然この世界に侵入してきたカラス女から逃げるため、主人公はこの塔を登り始めます。そこには何故か、これまでバベル九朔を出て行った歴代のテナント(80以上)が入っています。そして、死んだはずの祖父まで登場します。この世界を清算したいカラス女と世界を維持したい祖父、そしてこの世界から出て行きたい少女。もはや、誰が言っていることが真実なのかすら良く分からなくなってきます。

ただ、やがて明らかになってくる真実はざっと以下のとおり。
① 主人公の祖父は不思議な力を持っており、この世界(バベル)を作った。
② この塔は、「無駄を見ている人間の結末」を力にして上に伸びている。
③ 「無駄を見ている」とは、夢を追って徒労に終わった情熱のこと。
④ ③とは具体的には、潰れたテナントや主人公の書く小説。
⑤ テナントの出入りがなくなり、主人公も小説家になる夢を諦めたため、塔は伸びなくなった。
⑥ 塔には、地上から多くの影が流れ込んできている。影とは、社会からあぶれた汚濁など。
⑦ 塔が伸びなくなり、一方で影は流れ込み続けているため、影が溢れてきている。
⑥ 影が溢れてしまうと、バベル(塔)は崩壊する。崩壊すると、現実世界で大戦が起こる。
⑥ カラス女の役割は、バベルが崩壊する前に、バベルを清算すること。
⑦ 一方で祖父は、自分の力を引き継ぐ主人公を利用し、バベルを維持しようと企む。

そして、主人公は最後に、ある決断をします。なんとか祖父の作ったバベルを維持するために.....

最初に述べたとおり、本作はこれまでの万城目作品とは趣が違います。恐らく万城目ファンでも賛否が分かれるのではないかと.....。ただ、個人的には嫌いではありません。

本作では、誰かが夢に向けて努力した情熱が、現実世界の影を呑み込む力となっています。「無駄」と表現されてはいるものの、その「無駄」が汚濁を呑み込む力となっています。夢に向き合う情熱は、決して「無駄」ではありません。最後に現実世界を救うのも、まさに夢に向かう情熱の力でした。
そして本作では、言葉が持つ力も強調されています。旧約聖書に出てくるバベルの塔は、神が人々の言葉を乱した(言葉を通じなくさせた)ために建設が中止されます。しかしカラス女と主人公は、言葉が全てではないレベルで最後に分かり合います。そして、バベルは維持されます。
陳腐な感想かもしれませんが、夢に向き合うことの大切さ、そして人が分かり合ううえで言葉が全てではない(人々は分かり合える)、ということを感じた作品でした。

いやー、本ってほんまええもんです!!


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