2016年9月3日土曜日

グローバルなルールメイキングこそ最強の経営戦略と確信できる本

本日の1冊は、「グローバルなルールメイキングの現場」について書かれた本です。

かつてスキーのジャンプや柔道でルールの変更がなされた際に、「日本叩きだ」とマスコミが騒ぎ立てました。それと同じ現象が今、ビジネスの至るところでも起きています。ルールの策定(や変更)に対応できない日本企業が続出しています。

以前に別のブログでも書きましたが、例えば現在、オリンピックでは、選手村等々の関連施設で使用される素材に対し、認証が求められます。農産物にはGAP認証、海産物ではMSC認証、木材ではFSC認証等。一方で、こうした国際ルール・認証に疎い日本の業界は、これらの認証をほとんど取得していません。認証取得に必要な時間から考えても、このままいけば「東京で開催されるオリンピック・パラリンピックの選手村で提供される和食の食材が全て輸入品」というような笑えない事態に、現実に陥りそうです。
http://social-value-consultant.blogspot.jp/2016/05/blog-post_22.html

では、ルールとは本当にある日突然、日本に全く知らされないまま、秘密に出来上がるものでしょうか?

そんな訳ありません。長い年月を掛け、オープンな議論の場を何度も経て、作成されます。日本(と日本企業)が、ただそうした動きに無関心すぎただけです。本著は、そうした我が国の姿勢が「将来的には致命的になりかねない」として警鐘を鳴らしています。

競争戦略としてのグローバルルール
東洋経済新報社 (2013-05-02)
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本書の著者は、十数年にわたり、民間の対EUロビイストとして、また政府のWTO交渉官として、グローバルルールの形成過程の現場で生きてきた方です。まず著者は、日本人が「ルールを金科玉条として崇める」のに対し、海外の政府も企業も市民も、普通に「ルールは時々の都合でどうにでもなるものだ」と発想することを指摘しています。

日本人は自らの技術力を誇りとしています。しかし、その技術力が逆に裏目に出ることもあります。そもそもルール形成の交渉は、技術力のある国ではなく、アジェンダを設定した国が主導するそうです。実際、水素エンジン自動車を最初に開発したのは日本企業でしたが、技術規格づくりを主導したのはEUでした。技術が規格化されてしまえば、一般に技術開発の余地は狭くなってしまいます。むしろ、高度な技術を不用意に交渉の場に提示したりすれば、「その技術を提供しろ」と情報開示を途上国から要求されてしまいます。

一方の欧米の先進企業は、極端な話、技術が完成する前にまずルールを作ってしまいます。例えば新しいビジネスを始める際にも、「既存ルールと衝突」するリスクを「新しいルールで管理」しようとします。「社会はかくあるべし」といった理念を掲げることで社会の声もうまく味方につけ、自社に競争優位をもたらすルールを策定してしまいます。さらには官民一体で、途上国にもこのルールを広めます。そうして、欧米でも途上国でもない国、つまりは日本独自のルールは世界のマイナーとなっていくのです。

日本人は、既存のルールを権威と同一視する傾向があります。ささいな法令違反であっても、その実体的影響度を勘案することなく、徹底的にバッシングする風潮があります。企業側が反論できないのをいい事に、度が過ぎる批判が展開されます。しかし、新しいサービスや製品、そして新しいルールには「間違い」もつきものです。いまの日本には、それを受け入れる「懐の広さ」が不足しています。

一方の欧米では、軽微な違反であれば、その事実は公表されないし、罰則も科されないそうです。新しいルールについても、「目標」であり「社会実験」であると考え、まずはトライすることを重視しています。そこには、失敗と軌道修正が前提としてあります。つまりは、「ルールはどうとでもなる」という発想です。

著者は、日本人が誇る長期的な経営とは所詮、「今あるもの」を継続する能力にすぎないと言います。一方の欧米勢は、「今はまだ存在しないものの将来あるべき社会の姿」を見通し、それに向けて長い年月を掛け、ルールを整備していくと言います。どちらの持つ「長期性」が、企業の戦略においてより優れているでしょうか?

まさに、日本と欧米の文化の違いを感じさせられるとともに、日本(と日本企業)も「将来あるべき社会」を考えながら、これからのルール整備に長期的にコミットしていく必要性を感じた1冊でした。

いやー、本ってほんまええもんです!!


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