2016年10月1日土曜日

武士道の虚飾を暴く浪人映画(『切腹』(ネタバレです))

本日も、映画でございます。
なんせ、実に素晴らしい作品に出会ってしまったもので。

あの頃映画 「切腹」 [DVD]
松竹 (2012-12-21)
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本作は、1962年の作品です。しかし、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した名作です。主演は名優 仲代達矢さん。この作品の撮影時はまだ20代。しかし、その演技には鬼気迫るものがあります。仲代達矢さんの演技だけでも必見の価値あり、です。

物語は、江戸幕府の泰平の世となった1630年。井伊家の江戸屋敷に、芸州福島家の元家臣津雲半四郎と名乗る浪人が訪れ、庭先での切腹を申し出るところから始まります。

これは、泰平の世となり、食い扶持を無くした浪人の間で当時横行していたたかりの手口でした。切腹志願の覚悟が認められて仕官が適った例を聞き、多くの浪人が諸藩の江戸屋敷に押し掛け、結果、対応に窮した諸藩が金銭を与えて追い返していたためです。

井伊家家老である斎藤勘解由は、津雲半四郎を諌める意味で、少し前にも同じような申し出をしてきた千々岩求女(もとめ)という若い浪人がいたことを彼に話します。同じ福島家の元家臣であるものの、求女とは面識が無いと語り、勘解由の話に聞き入る半四郎。勘解由が語る話は以下のようなものでした。

庭先で、半四郎と全く同じ申し出をする求女。浪人のたかりを苦々しく思っていた井伊家では、仕官が適いそうなそぶりを見せて希望を抱かせた後に切腹を強要する、という陰湿な仕打ちをします。慌てる求女。井伊家は、一両日の猶予を欲しいとの求女の懇願も拒否し、さらに真剣ではなく、求女が腰にさげていた竹光での切腹を強要します。「武士の面目」の名のもとに。最期の瞬間も、切れない竹光を無理矢理腹に突き立てたまま悶え苦しみ、早く首を落としてくれることを懇願する求女に対し、「竹光で十字に腹を切れ」という辱めを強要します。それはまさに、強者(徳川家の有力家臣である井伊家)が弱者(藩を取り潰された福島家の浪人)を徹底的にいたぶる図でした。

勘解由の話を涼しい顔で聞き流す半四郎。そして「拙者は千々岩とか申す者とは違う。ものの見事に腹かっ捌いてお目にかける」と語り、庭先に用意された切腹の場に臨みます。しかしそこで、半四郎は一つの要求を勘解由に突きつけます。介錯人として、井伊家のある剣客を指名したのです。しかし、井伊家の遣いがその者を呼びに行ったものの、大病を患って出仕が適わぬとの返答。それを聞いた半四郎は、次々に別の2名の者を指名します。しかし奇怪なことに、その2名も大病を患っていました。そして、その者たちを遣いが呼びに行っていた間、半四郎は身の上話を勘解由たちにし始めます。
ー 千々岩求女、いささか拙者の存じよりの者であってな。
彼の話は以下のようなものでした。

求女は、切腹した半四郎の親友の息子でした。半四郎は、親友から求女のことを託されていたのです。一方で、半四郎には美しい娘美保がいました。半四郎は美保を求女の元に嫁がせ、二人の間には赤ん坊も産まれました。しかし、貧しさで美保は病いを患い、赤ん坊までが高熱を出します。武士の魂である刀まで売るほど困窮していた求女は万策尽き、妻と子どものために井伊家の前に立ったのでした。そして求女の死を追うように、美保も赤ん坊も病死します。

半四郎は勘解由に問います。「求女の行動は武士として言語道断だったが、求女に対する井伊家の仕打ちはひど過ぎたのでは?一両日だけ待ってくれとの求女の懇願に、その理由を聞くだけの思いやりを持つものが、何故一人もいなかったのか?」と。そして半四郎は「武士といえども一人の人間に過ぎない。妻子のために一両日待って欲しいとは、よくぞ血迷った」と求女を称賛します。そして半四郎は言います。
ー 所詮、武士の面目などと申すものは単にそのうわべを飾るだけのもの。

しかし、依然として情けの欠片も見せず、「武士の面目」について大上段に語る勘解由に対し、半四郎は「井伊家からの預かり物」として3つの物を投げて寄こします。それは、「武士の面目」を振りかざして求女に辱めを与えた主犯3名であり、かつ大病を患って出仕が適わぬと言ってきた3名の髷(まげ)でした。半四郎は言います。
ー 武士たるものが髷を切り落とされるは、首を打ち落とされたも同じ。不始末。不面目。(中略)にもかかわらず、病気と称し出仕を休み、ひたすら髷が伸びるのを待っている始末。赤備えの武勇などと言いながら、井伊家の家風も所詮、武士の面目のうわべだけを飾るもの。

半四郎、最後の大立ち回り











新渡戸稲造が著した「武士道」は、忠義や謙譲を信条として、世界でも広まりました。しかし、本作で描かれる「武士道」とは、強者が弱者をいたぶるための口実に過ぎず、藩存続のための建前であり体裁に過ぎません。本作では、武家社会の虚飾、人の醜さを徹底して描きます。しかし、当時の武家の世の実態とは、後者であった気がします。

半四郎の壮絶な最期を井伊家は「切腹」としてもみ潰します。大病を偽った3名も切腹と相成り、これらも「病死」として処理します。全ては、うわべを飾るだけの武士の面目のために。

いやー、映画ってほんまええもんです!!


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