2016年10月22日土曜日

沖仲仕の哲学の凄みを感じられる本(『エリック・ホッファー自伝』)

本日の一冊は、変わった経歴の持ち主の自伝です。

エリック・ホッファー自伝―構想された真実
エリック ホッファー
作品社
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本著の著者であるエリック・ホッファーは、独学の社会哲学者であり、「沖仲仕の哲学者」と呼ばれる方です。

7歳で母と死別し、同年突然視力を失い、以後15歳まで失明状態となります。そのため、正規の学校教育は一切受けていません。しかし、奇跡的に視力を回復した後、再び失明する恐怖から貪るように本を読みました。

18歳で父も亡くして天涯孤独となり、ロスに渡って、貧民窟に住んで様々な職を転々とします。28歳で自殺を図るものの未遂に終わり、それを機にロスを離れ、季節労働者として各地を渡り歩きます。一方で労働の合間に図書館に通い、大学レベルの科学、物理学、数学、地理学、植物学等をマスターします。

研究所等からの誘いも断って放浪生活を続け、39歳ではサンフランシスコに居を定めて港湾労働者(沖仲仕:はしけと船との間で、荷物のあげおろしをする人夫)として働き始めます。49歳で初めての著書を刊行し、その後も著書を刊行し続け、大学教授も勤めながら、65歳まで沖仲仕として働き続けました。80歳で死去する直前には、レーガン大統領から、自由勲章も送られています。

経歴だけでも凄いストーリーになってしまう方ですが、本著はこのホッファーの自伝となります。彼の人生を辿りながら、端々で彼のユニークな考えに触れることができます。


ー 人間という種においては、他の生物とは対照的に、弱者が生き残るだけではなく、時として強者に勝利する。(中略)弱者に固有の自己嫌悪は、通常の生存競争よりもはるかに強いエネルギーを放出する。明らかに、弱者の中に生じる激しさは、彼らに、いわば特別の適応を見出させる。(中略)弱者が演じる特異な役割こそが、人類に独自性を与えているのだ。われわれは、人間の運命を形作るうえで弱者が支配的な役割を果たしているという事実を、自然的本能や生命に不可欠な衝動からの逸脱としてではなく、むしろ人間が自然から離れ、それを超えていく出発点、つまり退廃ではなく、創造の新秩序の発生として見なければならないのだ。

人生において、実際に常に弱者の側に身を置いていた人間故の、経験から生み出された思想です。恐らく、多くの場合において強者の立場にいる通常のインテリ層からは、生まれない思想ではないでしょうか。


ー どんな問題であれ、つねに答えを知っている人間がそばにいたら、自分自身で深く考えることをやめてしまうだろう。そうすれば、私はもはや本来の思索者ではない。不愉快な発見だった。

彼は貨物列車の屋根の上でこのことに気付き、深く思索するために、愛読していた本も風の中に放り投げてしまいます。


彼は、一時期働いた農場の主(大地主)からある時、「あんたのことを理解できない。将来のことを考えたことはないのかい?どうして知性あふれる人間が安心感なしで生きられるんだろう」と問われ、真面目に答えます。

ー 信じられないでしょうが、私の将来はあなたの将来より、ずっと安全です。あなたは農場が安全な生活を保障してくれると考えています。でも革命が起こったら、農場はなくなりますよ。一方、私は季節労働者ですから、何も心配することはありません。通貨と社会体制に何が起ころうが、種まきと取り入れは続くでしょうから、私は必要とされます。


そして彼は一貫して「今この瞬間」に価値を起き、学習を続けました。

ー 類似性は自然なものだが、相違は人為的なものだと私は考える。違いを作り出した人々の名をわれわれが知っていることもあるが、そうした人びとの大半は無名の誰も訪れない墓に眠っている。(中略)私が知る歴史家の中に、過去が現在を照らすというよりも、現在が過去を照らすのだという事実を受け入れる者はいない。大半の歴史家は、目の前で起きていることに興味を示さないのだ。

ー 有意義な人生とは学習する人生のことです。人間は、自分が誇りに思えるような技術の習得に身を捧げるべきです。技術療法の方が、宗教的な癒しや精神医学よりも大事だと思います。技術を習得すれば、たとえその技術が役に立たないものでも、誇りに思えるものです。(中略)私は、かつて成熟するとは、五歳の子どもの真剣な遊び心を取り戻すことだと言いました。


彼は、自らの内発的動機のみに従い、学習と技術の習得を続けます。そして社会の底辺に自ら身を置き、そこにいる人たちの情熱、さらにはその内に潜む不満を感じ続けました。そして、そうした人たちの持つ力を「人間の独自性」と捉え、そこから学んだ勇気を持つことの必要性について、世に訴えました。

徹底した学習と実際の経験に根付く思想の凄みについて触れることができる一冊です。

いやー、本ってほんまええもんです!!


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2 件のコメント:

  1. はじめまして。
    私も今年『エリック・ホッファーの自伝』を読み、こんな人間(哲学者/思想の持ち主)がいたことに驚きました。彼の晩年の日記『安息日の前に』は、眠りにつく前に読む本としておススメですよ。

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  2. 有難うございます。
    『魂の錬金術』を読んでみようと思っていましたが、そちらも一緒に読んでみようと思います。

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